なにかのまねごと

A Journey Through Imitation and Expression

車を買うこと、その思い入れ

 かつて田舎暮らしをしていた頃、必要に迫られて車を買ったことがある。

 車を買うということは、私に大きな変化をもたらした。

 まず、車の車種に詳しくなった。

 それまで友達の車に乗せてもらいながら、友達があの車種は何だとかあの車種は珍しいとか言うのを聞いて、さっぱりわからんな、どの車も似たようなもんじゃないか、などと思っていたが、それがあのフィットは最新型だとかシャア専用オーリスだカッコいいー!とかぐらいは思うようになった。

 それもそのはずだ。車といえば100万200万の買い物だ。買う前にそれなりにあれこれ調べる。ウェブサイトを見たり車雑誌を買ったり。本屋に行っても車のコーナーをじっくり眺めるようになる。その結果、主要な車種を見分けるくらいはできるようになった。

 そしてこれは自分でも予想していなかった変化だったが、自分の車への思い入れができた。

 半年近くかけあれこれ調べ、試乗したりレンタカーで借りたりしてあれこれ乗り比べながら検討した結果、私はスズキのスイフトを買うことにした。

 買う頃にはすっかりスイフトのファンになっていて、乗り始めてからはこの個性的なテクノロジーを搭載した車がますます好きになった。

 私がスイフトを買ったのは6年くらい前だ。その頃のスイフトはエネチャージという、回生エネルギーをバッテリーに溜めはするがそれはアクセサリに回して車の駆動には使わないというエコシステムを採用していた。

 実は、スイフトを検討し始める前はハイブリッド車を買うつもりでいた。エネルギーの効率利用をするテクノロジー、その結果の燃費などに心惹かれていたのだ。

 そして検討の最後にレンタカーで目的の車種を借りて一日中乗り回してみたのだが、その結果は意外なものだった。

 そのハイブリッド車はエンジンとモーターの入れ替わりがあまりに静かで音などではまったく気がつかないのだが、アクセルの踏み込み具合と出るスピードに差が出ることがわかったのだ。同じだけアクセルを踏み込んでるはずなのに、気がついたら速度が変わっている。その乗り心地が車に乗りなれない私には怖く感じられ、結局ハイブリッド車を止めることにしたのだ。

 その後、ガソリン車で燃費が良いものに絞り始め、候補に上がったのがスイフトだった。スイフトには前述のエネチャージがあり、回生エネルギーをモーターに回すハイブリッドを止めた身には、それをバッテリーの充電にのみ使うというコンセプトがシンプルで好ましく感じられた。

 それに加えて好きだったのはエコクールというシステムだ。

 これは車のアイドリングストップをすると冷房が止まってしまうという問題点を解決するために考案された、非常に画期的な発想のシステムだ。

 エアコンの出口に保冷剤を仕込んでおく。それだけ。

 こうすることで冷房が効いている間は保冷剤を冷やし、アイドリングストップで冷房が止まると保冷剤に冷やされた空気が出てくるという、とてもローテクだがハイアイディアのシステムで、それもすっかり気に入っていた。

 正直、車を買うことを考え始めた頃はこんなに車が好きになるなんて想像もしていなかった。

 もちろん乗り始めてからはもっとスイフトが好きになった。もっと言うなら、スズキという会社も好きになった。

 私の父は日産乗りだったが、なぜ何度車を買い替えても日産だったのか、その気持ちがわかった気がした。

 車を買ってからは毎日のように車に乗って、通勤したり買い物に行ったりしていた。

 特に一人で車に乗るのが好きだった。その時間は、間違いなく私一人だけの時間だった。音楽を聴きながら、余計なことは考えずに運転に集中する。そして何処へでも行けると思える。そんな時間が何より好きだった。

 しかし結婚して上京するときに、車を持つことの費用対効果が悪くなり車を手放す決心をした。今から4年ほど前の話だ。

 私のあの白いスイフト。6年前に買った車だけれど、もしかしたら何かあってもう廃車になってるかもしれない。

 でも、あの白いスイフトが今でも誰かに可愛がられていることを心から祈っている。

 そして今日も街を走るスイフトに目を止めながら、あの車ではないかと思っているのだ。